今年もこの賞が発表されました。財団法人日本産業デザイン振興会が実施している「グッドデザイン賞」です。我が国唯一の総合的デザイン評価・推奨制度で、応募した中から「形の良さ」だけではなく、「品質の良さ」「使いやすさ」「商品としてのバランスの良さ」が認められたものに送られます。「グッドデザイン賞」を受賞した商品には「Gマーク」が付けられ、よくカタログや店頭などで目にすることも多いのではないかと思います。
さて、鉄道の世界においても毎年、「グッドデザイン賞」に選定される車両や駅などの施設があります。かつては当時の金賞も受賞したJR東日本209系電車や、東北新幹線「はやて」「やまびこ」・長野新幹線「あさま」のE2系や秋田新幹線「こまち」のE3系、車両以外でもみなとみらい線の各駅やICカード乗車券Suicaなども受賞したグッドデザイン賞、昨年度は東海道・山陽新幹線のN700系が車両としては金賞を、そしてグリーン車の座席についても受賞しましたが、今年も鉄道関連で選定されました。
今年はまず、この車両がグッドデザイン賞に選定されました。
グッドデザイン賞に選定された 小田急ロマンスカー60000形「MSE」 2008年3月15日 和泉多摩川で筆者撮影
今年3月に営業運転を開始した小田急ロマンスカー60000形「MSE」が、ロングライフデザイン賞も受賞した30000形「EXE」、そして50000形「VSE」に続いて選定されました。
60000形「MSE」はロマンスカーとしては初めて東京メトロ千代田線に直通する車両で、地下鉄に対応した車両構造とするとともに、流線型ボディの色彩は、地下の駅でもさわやかな明るさを感じさせるフェルメール・ブルーを使用し、ロマンスカーの伝統カラーであるバーミリオン・オレンジの鮮やかな帯を窓下の高い位置に配置しました。また車内は、ワインレッドのカーペットと木目調の化粧シート、真鍮製の手すり、電球色のLED照明を用いるなど、落ち着いた雰囲気の中にシャープ感も合わせて表現しました。
60000形「MSE」は、平日は地下鉄千代田線に乗り入れる朝の「メトロさがみ」及び夜の「メトロホームウェイ」として通勤通学時のゆとりある車内を提供するとともに、土休日は「メトロはこね」として地下鉄千代田線北千住から箱根湯本へ、観光客を乗せて走っていると共に、日によっては地下鉄千代田線・有楽町線を経由して新木場へ「ベイリゾート」として、小田急線から湾岸地域の行楽客を乗せて運行されており、地下鉄を活かした新たなネットワークを築き運行されています。
なお、小田急ロマンスカー60000形は同時に、近年の鉄道建築や車両デザインなどの鉄道プロジェクトを対象とした国際コンペティションである、「ブルネル賞」も受賞しました。国内外で、そのデザインの優秀性が評価されたことになりました。
今年度のグッドデザイン賞、この車両も選定されました。
グッドデザイン賞に選定された智頭急行HOT7000系リニューアル車「スーパーはくと」 2008年9月28日 京都で筆者撮影(なお画像の車両がリニューアル車であるとは限りません)
兵庫県の山陽本線上郡から鳥取県の因美線智頭を結ぶ智頭急行が保有し、京都から鳥取・倉吉を結ぶ特急「スーパーはくと」に使用されるHOT7000系気動車のリニューアル車が選定されました。
リニューアルにあたって、「旅への期待と思い出づくりのおもてなし」の考えを基本に、従来の考えである単なる交通移動手段としての鉄道でなく、乗って楽しんで満足していただくことを期待し、お客様の目的でもある地元の様々な観光地や地場産業の民工芸品を積極的に採用して、より満足できる空間を演出したことが評価の対象になりました。
先日の旅行で京都~三ノ宮で乗車した特急「スーパーはくと」、その時の車両がリニューアル車であったかどうかは定かではありませんが、京阪神地域から鳥取・倉吉を結ぶ特急として確固たる地位を築き、今日も運転されています。
グッドデザイン賞、こんな車両も選定されました。
グッドデザイン・サステナブルデザイン賞を受賞したJR北海道が開発した「デュアル・モード・ビークル(DMV)」 2007年8月6日 原生花園で筆者撮影
JR北海道が現在開発を進めている、線路も道路も走ることができる乗り物「デュアル・モード・ビークル(DMV)」が、グッドデザイン賞に選定されました。なおDMVは、今年度から新設された特別賞で、すべてのグッドデザイン賞受賞対象の中で、地球環境問題を踏まえ持続可能な社会の実現をめざしていると認めるものに贈られる「サステナブルデザイン賞」に選ばれました。
DMVは、既存のバスをそのまま活用した「線路と道路のどちらも走行可能な乗り物」で、その「道路モードと線路モードの切換」は乗客を乗せたままで可能であり、わずか15秒程度で完了しまた、道路走行はバスと同様に前後ゴムタイヤで走行するが、線路走行は前後に格納した鉄車輪を載線させ、線路上に載った後ゴムタイヤ(内輪)の駆動で走行する乗り物で、このようなDMVの低コスト・省エネルギー・利便性という特性を有効に活用することで、少子高齢化、モータリゼーションなどの影響により経営状況が悪化している地方の公共交通機関を地域にあった形態で再編が可能であり、イノベーション的役割を担えるシステムであると評価されました。全路線の半分以上が利用需要の少ない路線であるJR北海道にとって、今後の路線維持にむけて既存のマイクロバスを改良して、輸送量にあった小型・軽量化を図った少量輸送の乗り物により従来の鉄道車両と比較して、省エネルギー性を高めると共に車両のコストを下げ、線路も道路も走行可能な車両として利便性を高め、地域の活性化に役立てることを目的として開発を進めてきました。
昨年から釧網本線の浜小清水~藻琴で試験営業が始まり、今年度も大盛況とのことです。今年開催された北海道・洞爺湖サミットでも展示され、さらには現在試験営業を行っている車両よりもさらに大型で定員も多いタイプの車両も試作されたとのことで、ローカル線の存続と活性化に向けて各地から注目が集まっている「DMV」、今回の受賞でさらに本格的な実用化に向けて、期待がさらに高まってくるのではないかと思います。
今年度の鉄道車両としての受賞は以上ですが、この他にもJR東日本で東京駅に設置した「さわれる案内板」が選ばれたほか、鉄道事業者ではないものの東急多摩川線沿線で展開された現代アートによる街づくり「多摩川アートラインプロジェクト」(昨年11月に東急多摩川線でこのプロジェクトの一環として運転された「レインボートレーン」の記事はこちら)なども選定されました。
今年選定された車両や施設は、いずれもデザインだけではなく「品質のよさ」や「バランスの良さ」など、客観的な目で優れていると評価されたものばかりです。
まだ活躍を始めてまもないこれら車両のこれからの活躍に、ぜひ注目してみようではないでしょうか。
参考 財団法人日本産業デザイン振興会 2008年度グッドデザイン賞 受賞結果
小田急電鉄オフィシャルサイト ニュースリリース(PDF)
智頭急行オフィシャルサイト ニュースリリース(PDF)
JR北海道オフィシャルサイト ニュースリリース(PDF)